
大山崎春茶会 「福建」
2013年5月18日(土) 5月19日(日)
「不可一日無茶」
茶のなき一日なし
福建は「宁可百日無肉、不可一日無茶」といい、百日肉を食べぬ事はあっても、茶のない一日はありえない、と言い慣わす、中国きっての茶処です。
茶は客をもてなし、日常の休息、娯楽から、数々の雅俗になりました。
福建人は、あらゆる茶を愛好し、緑茶、白茶、紅茶、青茶、花茶などを作りだし、世に送りだしました。福建は、水、火、茶、道具の四つの要素に重きをおき、水は清く甘い泉の水を佳とし、小さな炉で湯を沸かし、精緻な茶壷を長年の人生の友人のように扱い、茶を淹れます。茶壷中につもった茶垢でさえ、「壷内結牙」とよんで大切にします。
湯は高く、茶は低く注ぐ「高沖低斟」とし、流れるように一気呵成に茶を点てて味わいます。
第二十二回大山崎春茶会は、すべて福建のお茶で茶会を開催致します。
時、春から初夏へ。庭園にも、さまざまな花が咲いています。
茶席のお茶も、花にちなんだものがたくさん登場致します。
あわせてお楽しみください。
- 監修
- 中国茶会 黄 安希
- 茶藝
- 大塚美雪、末松剛介、竹内貴美子、古澤江実、戚暁輝、曽根綾恵、市場静枝、田中ゆかり、和田あづさ、西村慶子、増地恵美子、後藤美知子、中野優里、長尾真子、横山晴美、赤井珠真子、西原ひとみ、西原禎志、島田有貴、樺嶋佳子、藤田昌子、藤野真紀、大野真理子、中村里子、西村沢子、小倉康代、木下敏江、安間賀世、月本小奈恵、吉住和恵、二川美知枝、加藤由佳、野口恵未、穂積洋美、工藤和美、前直明、前悦子、吉田幸子、佐藤公美、細木原登喜子、吉田照代、倉本孝子、加藤幸江、栗川智香、飯國悦子、梅原由佳、余百加、黄 研、黄 安希
- 挿花
- 朝倉
- 竹筏
- 橋田竹材店
- 於
- アサヒビール大山崎山荘美術館
- 文責
- 黄 安希
荒茶席 (あずまや下にて)
福健省に、武夷山という山があり、百二十里の大きな山中に大小の寺院が50以上もあり、たくさんの僧が住んでいました。本来、お茶は仏教と深い結びつきがあり、武夷山中は、またお茶の栽培に非常に適していました。福建はもともと優れた茶を産し、人々は造茶に対して見識が高い中、僧はひときわ優れたお茶の作り手となり、山中にはたくさんの茶木が植えられ、大切に守られました。僧は、またこうして作った武夷の茶を、香り高く巧みに点てたため、その茶の芳しさと美味しさは方々にきこえました。
お茶は、いつしか、貴重な薬のように、難病を治癒し心身を平安にするたぐいまれなものとして、皇帝にも献上されるようになりました。山中の茶木には、それぞれ重厚な名前が付けられ、ほかの木と混ぜて製茶しないように、丁寧に扱われました。
よい茶の茶摘みは、年に一度。四月の終わりから五月にかけて最盛期です。
春の新芽が伸びて、開葉し、烏龍茶にふさわしい一芯三葉以上の大きさになると、はじめて茶摘みが行われます。摘んだ茶葉を日光に晒したり、屋内で休ませたりしながら、よい香りがあらわれるまでおいた後、竹笊の上で茶葉をゆすりながらあおります。
武夷岩茶の命といえる「岩骨花香」という独特の香りを引き出したなら、茶葉に熱を加えて火入れを施します。
丁寧にもみあげて出来たお茶は、「荒茶」という状態です。
ここからさらに、封をして室温で一ヶ月ほど寝かせ、さらにゆっくりと炭火で何度も焙煎すると、お茶の内外の風味が調和し、だんだん強い茶味が横溢してきます。
原料の茶の味に加え、作り手の巧みの技、そして追熟によって完成した茶は、次に手作業で茎の部分を外し、茶葉を均等な大きさに仕上げた後、包装されて出荷します。
子供達は、幼少の頃から大人に混じってこの荒茶の選別作業を手伝います。
山は夏。六月、七月頃、昼下がりの気温は毎日30度をこえます。
木造の製茶場は、広くて天井が高く時折風が通りますが、薄暗がりに窓から差し込む日差しは白く、お茶の細かい粉末が光の中にちらちらと舞っています。部屋中に立ちこめる、眠気を誘う、花のような新茶のよい香り。
ひとつ、ふたつ、指先で茎を取る退屈な仕事、小さな子供は机に突っ伏して、じきにお昼寝をしてしまうのでした。
誰も怒る大人はいません。
小さい頃、みんな覚えがあるのでしょう。
ゴールデンウイークに作られたばかりの武夷岩茶の荒茶、三種をお淹れ致します。
- 茶
- 2013年春 武夷肉桂(ぶいにっけい)水仙(すいせん)
105大紅袍(だいこうほう)
百花席 (あずまやにて)
如夢 夢の如く
如幻 幻の如く
如泡 泡の如く
如影 影の如く
如露 露の如く
如蕾 蕾の如く
水中の花を観る如し。工藝茶をお淹れしています。
福建の工藝茶は、福健省福州市の白茶基地で作られる白茶をベースにし、百数十本の茶の若芽を同じ方向に束ね合わせ、糸でかがり、中にさまざまな花を仕込んでお湯に淹れると花開くように茶葉が開く仕掛けです。ゆらゆら水中にたゆたう姿は、幻想植物園のようです。
菊、茉莉花、カーネーション、千日紅、百合、キンモクセイ、メイクイなどの花が使われます。
見た目が面白く、気軽に淹れることができるため、1990年代から人気を呼びました。
花をお茶に用いる習俗は古くからあり、香りの飛びやすい緑茶や白茶に花を加えて、合わさった芳香と花の美しい姿を愛でました。
中国の花との関わりは、お茶に淹れて楽しむ他に、女性の頭髪や衣服の胸につけて香らせたり、寝室においてよい香りの中で眠れるようにしたり、また、象牙や竹製の美しく細工した筒の中に香り高い生花を入れて楽しむ「香筒
などがあり、日本とは異なる花の賞玩のしかたが見られます。
- 茶
- 工藝茶(こうげいちゃ)各種
点翠席 (庭園にて)
福建南部、安渓は南の古い茶産地です。鉄観音という青茶が有名で、蘭の花の香りがするといわれています。丸く結球した茶葉に仕上げるのが特徴ですが、製茶したあと、細かい粉末の茶粉が残ります。そのまま製品に混ぜてしまうと、お茶の水色を濁らせるため、丁寧にふるいにかけて、取り除きます。取り除いた粉茶は、にごった色のお茶になるのですが、味が濃く出るため冷たいお茶にすると美味しくなります。氷を頭上に吊るし、とけた水滴を粉茶に点々とたらして、ゆっくり抽出してみます。ほろ苦く、しっかりとした渋みのお茶になるでしょう。
ガラスの大皿にたまった滴、「点翠」を、すくってどうぞ。
近くに丸く穴が開いた大きな石がありますね。お伊勢さんの方角を向いているそうですよ。
- 茶
- 2013年春 安渓鉄観音(あんけいてつかんのん)粉茶
竹筏席 (あずまや庭園中央にて)
福建は、陸地のほとんどが山間地で、また、海岸線が3700キロ以上も連なっているため、
歴史的に船の民でもありました。「中国海上馬車夫」(中国の海上の馬の御者)だそうです。
世界中に散らばった「華僑」と言われる人々は、多くは海に向かって漕ぎ出た福建人です。
福建人は、お茶、お菓子、たばこは、一人が持っていたらそれを居合わせたみんなで分けるという習慣があるそうです。
竹の筏を茶席にしました。
緑の芝生の海で、筏の上でお菓子とお茶をどうぞ。
お茶は香り高い、福建省産の茉莉花茶の水出しです。
船頭さんに分けていただきましょう。
- 茶
- 2013年春 茉莉花珍珠螺(まりはなちんじゅら)
松燻席 (あずまや庭園奥にて)
福建は、世界における紅茶の発祥地です。
世界最古の紅茶は、福建省星村鎮桐木村(現在の武夷山自然保護区内)で作られていました。中国は広大な大陸ですから、物流は陸路が主でしたが、福建人は海上のルートも得意としていました。
1602年、福建の廈門の港に、はじめてオランダ船が着きました。中国のさまざまな主要な貨物が積み込まれましたが、その中に福建紅茶が入っていました。これがヨーロッパに入った最初の紅茶でした。オランダは当時ヨーロッパにおける海上貿易の覇者であったため、これを機に紅茶が大量にヨーロッパに波及しはじめます。
17世紀に入って当時の清政府は「海禁令」を実行し、福建の港を閉鎖しました。
福建人は船でポルトガル領マカオまで荷物を積み、そこで引き続きヨーロッパとの海上貿易が続けました。「正山小種」は、烏龍茶の発酵が強まった風味の紅茶で、発色の強さと松の木で燻製するため独特の燻煙香が特徴で、イギリスで愛好者が多いことで知られています。ラプサンスーチョンという読み方は、松燻の発音ルーシュンがなまったもの。
スーチョンはお茶の葉の部分と大きさをさし、上から二番目、三番目の葉を表します。
- 茶
- 2012年夏 正山小種(ラプサンスーチョン)
牡丹席 (茶室彩月庵)
この席のみ、整理券制となります。
花の名が付けられた中国茶はたくさんあります。
白牡丹、紅牡丹、緑牡丹、黄枝香(くちなし)、玉蘭香、奇蘭、水仙、梅花、茉莉花茶、
お茶の味の先に、摘み取られた時の小さく若い緑の風味だけでなく、葉が伸びて成長し、いつしかそこに蕾がつき、花が咲き誇る将来。
そこまでを茶味の中に汲み取ろうとする独特の感性が見られます。
「茶の中に花を見る。」
茶に花で香り付けたり、花の形に作ったり、茶に花を混ぜたりするほか、茶の発酵の香りを花に例えることも多く、そのなかでも「蘭香」は、お茶の最高の形容詞となっています。牡丹の花は、二世紀ごろから栽培されはじめ、はじめは薬用でした。
5世紀頃には、その美しさから画材としてもてはやされるようになり、牡丹の栽培が盛んになりました。牡丹は「花王」、「富貴」をあらわすようになりました。
白牡丹は、春先に出てくる一芯二葉のお茶の葉を摘んで、日光にあてて軽く萎凋させ、
茶葉の自然の形態をそこなわないように仕上げます。出来たお茶の様子が、牡丹の花が散った様子に似ているということです。
優しく軽い味のお茶で、夏の暑さをしのぎやすくする去熱の効果があります。
- 茶
- 2013年春 白牡丹
水仙席 (茶室トチノキ亭)
清明過ぎて穀雨になって
手荷物背負い、福建へ
急げ、急げと福建へ
夜半遅くに山に着き
わらの布団に杉の木枕
故郷を思い起こしても
半碗ごはんに半碗の菜
お茶は江西へ送られて
半碗の青茶は鶏肉より上等
茶摘みは、ほんにつらい事
三晩に二晩は寝られない
茶樹の下、冷たいごはんたべ
あかりの下、手間賃数える
武夷山には九匹の龍がいるそうな
十人の親方に九人の貧しい労働者
若い時は身一つで、
年老いても、竹竿一本あるだけだ
「武夷茶歌」
「武夷茶歌」にうたわれた清時代の茶摘みの情景は、非常に哀切が漂い、労働者の苦労が織り込まれています。傾斜のある山の茶畑で、春先の茶葉が大きく伸びてしまわないうちに寝る間も惜しんで茶摘みをしたのでしょう。摘んだ茶葉はお隣の江西に送られて、高値がついたようです。
水仙は、武夷岩茶の一種でもともとは広東省の大衆烏龍茶でしたが、武夷山に植樹されて山のミネラルを含み水仙の花のように華やかな残り香のお茶となって、現在は、武夷岩茶を代表する銘柄の一つです。福建茶の茶葉の多くは、手摘みからはじまって、お茶の勘所にあたる部分は手作業が主です。手作りでなければ生まれないかたち、発酵のさせ方、香りの引き出し方に長い工夫があり、茶師の経験と感覚によって茶味が磨き上げられます。
自然が生み出し、多くの人々の労働と巧みがあわさったお茶。
福を建てる、点てるお茶。なんともありがたいものです。
- 茶
- 2012春 武夷水仙
茶席のお菓子
蒼穹(京都市東山区宮川筋)
(あずまや)
手工 椰子曲餅 南京つくね 落とし焼き
(彩月庵)
黒糖羊羹「南風」
福建より
(あずまや竹筏上)
福建貢品橄欖(福建省特産オリーブ)
北京より
(トチノキ亭)
山の木の実たちと葡萄
開心果(ピスタチオ) 杏仁(杏の種) 榛子(ヘーゼルナッツ)山葡萄(種入り)
中国茶会無茶空茶は、一九九七年五月より、中国茶の楽しみをお伝えする 教室を開いています。
中国茶教室 中国茶館 『中国茶会 無茶空茶』
大阪市北区西天満三丁目九の十二
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