大山崎春茶会 「満庭芳」

2012年5月12日(土)、5月13日(日)

花陽千条 春爛漫

満庭芳香 一杯茶

     

大山崎茶会は、今春で二十回目を迎えました。
皆様に深く感謝の意を申し上げます。
記念すべき、本会は、二十にちなみ、二日間に渡って、中国の二十箇所の茶産地のお茶をそろえ、味わっていただく趣向です。
どうぞ、中国茶周遊の春旅をお楽しみください。

出品茶産地

浙江、湖南、安徽、四川、重慶、福建、雲南、湖北、広東、広西、 貴州、江蘇、江西、陝西、河南、山東、西蔵、甘粛、海南、台湾

監修
中国茶会  黄 安希
茶藝
大塚美雪、佐藤美代子、前直明、和田あづさ、佐藤公美、西村慶子、川西万里、増地恵美子、佐藤かおり、中野優里、長尾真子、横山晴美、赤井珠真子、西原ひとみ、西原禎志、島田有貴、樺嶋佳子、大内眞奈美、藤田昌子、穂積洋美、淵脇千鶴、藤野真紀、吉田幸子、中村里子、西村沢子、小倉康代、木下敏江、白橋晶子、安間賀世、大軽恵美子、近藤京子、竹内貴美子、月本小奈恵、田津原寛子、吉住和恵、堀口一子、広里優美、二川美知枝、工藤和美、加藤幸江、栗川智香、飯國悦子、梅原由佳、黄研、黄安希
アサヒビール大山崎山荘美術館
文責
黄 安希

五月十二日(土)中国茶周遊の旅

江南地方(大木前広場にて)

西湖龍井さいころんじん2012年春明前茶(浙江省龍井村)

西湖龍井は、マルコポーロの記した東方見聞録にもあらわれる西湖湖畔で収穫され、若い葉を扁平型に押しつぶすように造形し、鉄釜で直煎りして仕上げることから香ばしい豆香があります。清朝の乾隆皇帝が非常に愛好した茶として知られ、古来から十四、五才の女児が茶摘みをするそうです。中国緑茶では最も有名な銘柄として、清明の時期は非常に高価で取引されることでも知られていますが、銘茶は広く人々の手に渡るように安価なものもあります。

君山銀針くんざんぎんしん2012年春明前茶(湖南省洞庭湖君山島)

君山銀針は、わずか面積一平方キロメートルの君山島のみで作られる黄茶です。お茶の新芽を緑茶に作った後、湿り気のある状態で厚みのある中国宣紙に包んで、弱い火力で炙りながら二昼夜ほど置き、お茶の色がわずかな橙色に変わったら微発酵の黄茶。乾燥して仕上げられます。従来黄茶は、皇帝の色である黄色を目指して作り始められ、清代から献上品となりました。

黄山毛峰こうざんもうほう2012年春明前茶(安徽省黄山)

黄山毛峰は、世界遺産黄山の中腹、奇岩怪石が織りなす不思議な景観の中、各種野草と共存する霧深い山中で作られます。岳中の岳といわれ、中国の山水の雄。伝説上の皇帝「黄帝」がこの山に入り、仙薬を飲んで仙人になったそうです。栗のような香りとわずかにいぶしたような風味が特徴で、雀舌と呼ばれる一芯二葉の葉の状態のお茶は最上質です。

恩施玉露おんしぎょくろ2012年春明前茶(湖北省恩施五峰山)

恩施玉露は、古い茶産地である湖北の中で宋代から歴史がある茶で、中国緑茶としては珍しく蒸製法を今に残す緑茶です。(現在多くの中国緑茶は釜煎り製法。)茶経にもさかのぼる古い製茶技術、道具を用いて作られ、元は「白如玉」「玉緑」という名で呼ばれていました。日本のお茶、玉露は、唐代に中国から茶の原種と製法が伝わってから、ずっと古い蒸し製法で作り続けています。現在の日本で中国の古き茶の製法が残り、不思議な邂逅が見られるのです。

西南地方(藤棚通路にて)

滇紅てんこう2011年夏(雲南省西双版納)

滇紅は、雲南大葉種を用いた紅茶で、くっきりと鮮明な暗紅色のよい香りのする紅茶です。わずかな甘みが感じられるのも特徴で葉の状態、芽の部分のみの状態、芽と葉の混合された状態などさまざまな作りがあります。1940年代頃から広まり、現在中国紅茶のシェアを伸ばす銘柄の一つです。

茉莉瓢雪まりひょうせつ2012年春明前茶(四川省蒙頂山)

茉莉瓢雪は、茶葉の中に薄い単の茉莉花の花がたくさん混ぜられており、お茶を点てると花びらと茶葉が湯の中でひょうひょう、と舞います。元来、上質の茉莉花茶には茶葉の姿のみで花は取り除くということになっていますが、このお茶は香り付けした後に、乾かした可憐な花をたっぷりと投じて白く装わせ、雪か花かの、境界のない美しさをも醸します。

重慶沱茶じゅうけいとうちゃ2006年春茶(重慶市)

重慶沱茶は、元は四川省のお茶でした。重慶は1997年に直轄市となり四川省から昇格しました。この辺りは中国内陸部の盆地で、気温も湿度も非常に高く、武漢、南京とならんで「中国三大火炉(中国の三大かまど)」と呼ばれています。沱茶とは、大ぶりのキノコのような形をした黒茶の緊圧茶で、湿気の高い環境で熟成長期保存しやすいように分厚く、堅牢に固められています。

華南、南方地方(あずまやにて)

白毫銀針はくごうぎんしん2012年春明前茶 (福建省福鼎市)

白毫銀針は、福建省北部の白茶で、春先に大きく芽生えた白い産毛に包まれた新芽のみを採集し、一昼夜弱い日光にさらした後、屋内で陰干ししてわずかに発酵させ、果物や花のような淡い香りを呼び出します。茶葉が立錐するところがこのお茶のひとつの見であり、水中の景色のよう。気分を鎮め、体内の熱を冷ます「涼」の効能を持ち、初夏に最もふさわしいお茶の一つです。

白葉単叢はくようたんそう2011年春茶(広東省潮州鳳凰山)

白葉単叢は、青茶である烏龍茶の一種で、樹齢500年以上にもなる茶木が林立する鳳凰山で自生していた木がルーツです。鳳凰山は大きな岩が苔むしながら、ゴロゴロしている茶山で、茶木は岩盤質の土壌から豊富なミネラルを吸収して、大きな薄い葉の一枚一枚に各々ミネラルが複雑なバランスで取り込まれるため、香りや味わいが決して均一にならず、製茶後、飲んだ時に一言では言い表わせない味になります。茶木は、一切剪定をせず、周囲の雑木や下草を刈り込むことも禁じられており、一切が自然のままに生育させます。

六堡茶ろっぽうちゃ2007年夏茶(広西省蒼梧県六堡村)

六堡茶は広西チワン族自治区で作られている黒茶です。イグサで作った籠に茶葉を詰めて、そのまま高温保湿の環境で保存することで、茶葉がまとまってくっつきます。金花カビという麹菌の一種が活動しているため、発酵食品特有の癖があって、人参の芯のような苦さ、薬の風味、石のような味が感じられるあっさりした赤い色のお茶。何煎か飲むうちに体を養生し暖めて、首の後ろが安らぐのだそうです。金花カビはそれ自体に滋養があるため好んで摂取されるようです。

五月十三日(日)中国茶周遊の旅

茶産地北限地方(大木前広場にて)

日照毛峰にっしょうもうほう2012年春雨前茶(山東省日照県)

日照毛峰は、中国山東省南部、日照で作られる緑茶で、チンタオビールで有名な青島にも隣接し、茶産地としては北限地近くに位置します。夏は涼しく、冬は厳しい寒さとなり、冬の平均気温は零下です。温帯から北部にかけてのお茶特有の、緑が深い濃い味で、煎った香りが甘く転じて美味しい緑茶ですが、流通はあまりなく、地方銘柄の緑茶として親しまれています。

信陽毛尖しんようもうせん2012年春雨前茶(河南省信陽市)

信陽毛尖は、中国十大銘茶に選ばれている緑茶です。霧がかかる標高800メートル内外の山地で栽培、年間三回の茶摘みの中、春茶の品質が最高とされ、穀雨頃(四月二十日前後)が春茶、芒種(六月五日前後)が夏茶、立秋(八月八日前後)が秋茶になります。茶作りの歴史は古く、東周時代(紀元前770年から256年)まで遡り、茶経にも取り上げられている産地です。

漢中仙毫かんちゅうせんごう2012年春明前茶(陝西省漢中市西郷県午子山)

漢中仙毫は、三国志演義にも見られる「黄巾の乱」の舞台になった古い地、西郷県漢中で作られる緑茶。漢中の茶作りの歴史は古く秦漢時代まで遡り、唐代には最盛期を迎えましたが、その後衰退してしまいました。このお茶は1985年より作られ始め、北緯33度、気候は温暖で雨が多く、現在中国で最も北寄りの茶産地となっています。
仙毫とは、仙人のひげ、という意味だそうです。

古都、名山、少数民族(藤棚通路)

南京雨花茶なんきんうかちゃ2012年春明前茶(江蘇省南京市雨花台)

南京雨花茶は、美しい名前の緑茶です。南京は古い都で北京、西安、洛陽と並んで中国四大古都の一つ。雨花台は南京の景勝地で、雨のように花が降ったという故事からその名がつきました。南京市民はその昔より「飲早茶(モーニングティ)」の風習があり、早朝より一壷に点てられた雨花茶の茶湯を買い求める人々がたくさんいたそうです。現在の雨花茶は、一芽一葉で摘まれた柔らかい葉を「松針」と呼ばれる針状に手作業で作り上げられます。香りが清幽として滋味があり後味がほのかなお茶です。

廬山雲霧ろざんうんむ 2012年春明前茶(江西省九江市廬山)

廬山雲霧は、中国漢詩に四千首以上も読まれた詩の山として有名な、廬山で作られる緑茶です。夏の廬山は、雨がざーっと降るとたちまち止んで山間から濃霧が立ち上り、風が霧を自在に動かして道がなくなり山の尾根も見えなくなります。まさに雲霧の世界、天界を歩むようであるとのことです。陸羽もこの地を訪れたほか、李白、蘇軾も廬山に遊びたくさんの詩を残しています。陶淵明は、生涯を廬山に近く居住して制作し、桃源郷をうたった「桃花源記」は代表作です。詩をはらむ山のお茶は、濃く強く芳醇で、山の息吹が茶味となって霧のように漂います。

都匀毛尖といんもうせん2012年春雨前茶(貴州省都勾市)

都匀毛尖は緑茶で、清明節過ぎから秋口まで長く茶摘みを行います。貴州省は少数民族が多く地下資源や生物資源、森林資源の多いエリアで、全中国の漢方生薬の材料の80パーセントがここで得られるほどです。茶葉は、手作業で螺旋状に丸められており、この形状を螺(たにし)と呼びます。中国緑茶の揉捻の手法の一つとして、この「螺」という形状があり、茶葉に体積が出て湯に落とした時に抵抗なく垂直に落下しやすいため、お湯を先に張っておいて上から茶葉を落とす「上投法」という淹れ方が適しています。茶葉に直接湯を当てるより熱負担が少ないため、葉がゆるやかに開いて、お茶の口当たりが柔らかくなります。

西域シルクロード、南の海道(あずまやにて)

洋甘菊ようかんきく2012年春(西蔵高原)

洋甘菊は、花茶の一種です。熱湯でさっと洗い流してから湯に淹れて飲んだり、煮出して成分を強めて飲んだり、他のお茶に混ぜたりして飲みます。ヨーロッパ原産で、西アジアに分布しているキク科の一年草で、カモミールはこの仲間に入りさまざまな色や形の種類が見られます。リンゴのような果実の香りがするものや、甘い芳香があるものなどさまざまでビタミンが多く含まれ、消化を助け、カフェインが含まれていないことから胃腸に負担が少なく安眠効果があるとされています。西域は古くからシルクロード交易の舞台となりました。さまざまな物品が通過しながら、土地に根付いていきました。

紅棗茶べになつめちゃ2011年夏茶(甘粛省)

紅棗茶は、ナツメの実を乾かして、それを煮立ててお茶がわりにしたもので、標高が高い地方、雨が少なく乾燥した地方はお茶がとれないため、お茶の代用品として日常的に飲まれています。お菓子の材料に用いたり、生薬として使ったりもします。強壮と鎮静の両方に薬効が働くということで多数の漢方薬に配合されています。原産地は西アジアから中国にかけての西域で、日本へは奈良時代以前に伝えられました。茶道で用いる棗は、この実の形が似ているためで、日本語の語源は、夏に芽が出るからだそうです。

苦丁茶くちょうちゃ2011年春茶(海南島)

苦丁茶は、茶外の茶でオトギリ草、イボタノキ、モチノキ科など数種の植物から作られる健康茶です。丁とは釘の意味で、細長くねじった形状を表します。味わいは苦く、飲み干した後に微妙に甘さが残り壮快な感じがありますが、長くお湯に浸けておくと苦みが強くなります。風邪、鼻炎、目のかゆみ、眼性疲労に効き、肝機能を改善させるそうです。かなり古くから民間で飲まれていたようで、茶経にも別名「瓜芦」と呼ばれて記述があります。お茶が苦い飲み物であり、もとは薬から派生して選び抜かれていく途上の仲間の薬草であったのでしょう。

木柵鉄観音もくさくてつかんのん2011年秋茶(台湾木柵)

台湾北部を代表する台湾茶。青茶の中でも中発酵で、重火の炭火焙煎をかけるため茶葉がからっと香ばしく、オレンジやカカオに似た独特の風味があり固く揉捻しているため、 何煎も繰り返してお茶を淹れることができます。福建省の安渓から清代、光緒年間に台湾に伝えられた伝統の製法です。春と秋に収穫します。
よい相性の急須を選ぶと、お茶はさらに美味しくなります。香ばしいのに軽く、後味が水のように溶け、素晴らしい果実の香りが残る、このお茶のよい所を十分引き出すことができるでしょう。



こちらの二つのお茶席は整理券制になっています。

五月十二日、十三日共

唐代末茶席とうだいまっちゃせき(茶室彩月庵)

粉状、あるいはすりつぶした粉末状の茶、抹茶の歴史は唐時代に陸羽によって記されたお茶についての書物「茶経」に、当時のお茶の作り方の記述が見えます。
春に茶摘みを行い、茶葉を蒸して、うすで搗きます。その後、ちょうどお菓子の落雁を作るようにペースト状になれば、それを型に詰め打ち抜きします。その後、炭火で焙ってお茶を乾かし、出来た茶餅(丸くて平たい形状のお茶の事)の真ん中に穴をあけてひもに通して保存します。飲むときは、青竹で作った茶夾で軽く炙ってから、固まりの茶餅を碾という、粉ひき臼でひいて粉末状態の末茶にします。
お湯が沸いたら、塩で調味をし、その中に末茶を投入して鉄箸でかきまぜます。
その後、ひしゃくでお椀に汲み分けます。
お茶を淹れる水は、「山の水は上、川の水は、中、井戸の水は下」ということです。
山崎の山の水で、誰も見た事も飲んだこともない唐代の末茶をたわむれにしのんでみることと致しましょう。

福鼎白茶餅席ふうでいばいちゃぴん(茶室トチノキ亭)

福建省福鼎で作られるお茶に太白種の白茶があります。白茶は、従来なら作った年度から翌年までに飲んでしまうほうがよいとされていました。散茶の保存では、発酵が浅いため品質が不安定で、また茶葉に産毛が多いため湿気を呼びやすく劣化しやすいためです。しかし、近年固形茶として圧縮保存し、微妙に風化していく味わいをもつ白茶餅がでてきました。固められてはいてもとても軽く、紙をはり合わせたようにざっくりしていて茶葉はもろくくだけます。黒茶が、菌類発酵によって茶葉同士が密着して固くなり色が濃く味わいが円熟して、はじまりと茶味が大きく転換してゆく様子とは違い、自然を旨とし淡白で飾り気のない白茶が、わずかに色をまといはじめ、風味にコクとうまみが生じ、そしてしまいには枯れはてて風化します。定めよりはもう少し遠回りさせ、その姿すら茶味として賞味する。植物の自然の息吹を取り込むことからはじまり、あらゆる茶味を導き出すその歴史的な貪欲さ。それが中国茶二千種にも及ぶと言われる所以でしょう。柔軟で、未知数で、清濁をあわせ飲み、大胆で繊細で透徹なもののあり方。
中国茶は、なんていろいろな、多くの楽しみがあるのでしょう。

茶席のお菓子

蒼穹(京都市東山区宮川筋)

豆板糖
お茶の香
胡麻クッキー
花あられ
熊猫チョコレート
バームラスク


演奏

春茶会の会場をパレード演奏で楽しく愉快に盛り上げます。

宴パンダとレブリジット

宴パンダ
アコーディオン奏者:福人
洗濯板ウオッシュボード:安倍宗春

▲ ページトップへ