大山崎秋茶会「一年好景」
2011年10月8日(土)、9日(日)

荷盡巳無撃雨蓋   蓮の花は、折り枯れて、雨をうけるかさもなく立ち、
菊残猶有傲霜枝   残菊の花は、すがれても、なお、霜に負けず咲いている。
一年好景君須記   しかし、君よ、心にとめてほしい。一年の好い景色は、
正是橙黄橘緑時   だいだいの実が黄色に、みかんの実が緑色に色付く、正に今だ。

宋代 蘇軾の詩 『初冬作贈劉景文』より意訳

第十九回を迎える大山崎茶会。秋茶会「一年好景」を催します。愁いある一年の中、しかし、枯れてなお立つ枯れ蓮、霜にあたっても咲く菊の花のように、傷をもちありのまま生きてゆく力を、「好景」として、次へつないでゆきたく思います。人の手の中の茶杯、人の手から注がれる一杯のお茶。柑橘の実を半分に切ると、ちょうど茶杯の寸法になります。手の平に包まれるみかんの実の丸い美しさ、あたたかい色調、みずみずしい香りのような、小さくも、はっきりとした確かさになりますように。
どなたでも楽しんでいただけるような、よい香りの立ち上る秋茶会を催します。

監修:中国茶会 黄安希
茶藝:長島博子、末松剛介、古澤江美、野口恵未、大軽恵美、曽根綾恵、金本徳祐、前悦子、前直明、和田あずさ、加藤幸江、宮桂子、赤井珠真子、西原ひとみ、西原禎志、西村慶子、島田有貴、樺嶋佳子、大内眞奈美、藤田昌子、中村里子、西村沢子、小倉康代、木下敏江、安部友佳子、後藤美知子、増地恵美子、渕脇千鶴、中野優里、吉住和恵、田津原寛子、三山香奈子、竹内貴美子、大城千晶、吉田幸子、近藤洋子、和田由紀、伊藤静子、大野真理子、藤野真紀、川西万里、堀口一子、工藤和美、栗川智香、飯國悦子、梅原由佳、黄研、黄安希
於:アサヒビール大山崎山荘美術館
文責:黄安希

玉環席(茶室彩月庵 下にて)
女児環(じょじかん) 2011年春茶(雲南省産)

女児環とは、「女の子の指輪」という意味です。その名の通り、幼い子供の小指に入るか入らないかほどの小さなリング状に丸められた形、かすかに花の香りがして、色あせた黄緑色のうつくしいお茶です。昔、大好きだった宝石箱の片隅から出てきた忘れ去られたおもちゃの指輪のようで、大人の自分の指先と比べてみると、その小ささと細さに驚きます。
このお茶は、雲南省の大葉種緑茶を原料とし、お湯の中に投じると、ゆっくりと指輪がほどけてお茶の芽芯の形に戻ってゆきます。外形の繊細な可愛さもさることながら、十分な香味を発し、滋味深い風味を楽しむことができます。
製法は、海抜1700メートル以上の山間部で若い芽のみを摘んだ後、わずかに微発酵させた後、蒸気で蒸して発酵をとめます。そのため、釜煎り製法で仕上げられる多くの中国緑茶に感じられるような、いぶしたような釜香があまりなく、柑橘風の清香がたちます。

枯蓮席(茶室彩月庵にて)
香睡蓮花茶(こうすいれんかちゃ) 2011年夏茶
蓮花茶(れんかちゃ)      2011年夏茶
(台湾白河鎮産)

睡蓮は、花が規則的に夜は閉じて、昼に咲くことから、「眠る花」という、この名前がつけられました。白い花を午後、未の刻(一時から三時頃)に咲かせることから、ヒツジクサとも呼ばれるそうです。睡蓮と蓮は、よく似ていますが、違う種類です。
しかし、共通点は多く、どちらも水のおだやかな池や湖の底土や泥に根をはり、水面に花を咲かせます。どちらも、花は3日間で、花期を終えます。違う点は、蓮の葉は、水をはじく性質があり、背がたかく水面から伸びていきます。そのため、中国の子供は、盂蘭盆(旧暦七月十五日のお盆供養の日)に、長い蓮の葉を雨傘にして遊んだり、ろうそくをつけて提灯にして楽しみました。一方、睡蓮の葉は切り込みが入った形で水をはじきません。また、水面ぎりぎりに葉を伸ばします。蓮は水面からかなり高く伸びますが、睡蓮は、水面ちょうどの高さから花を咲かせます。この、睡蓮、蓮は、古くからお茶にして飲まれており、中国の漢方、薬学の古書「本草綱目」にも、その効用が記されています。体を温める性質があり、夜は眠る花らしく、不眠治療に効果があるそうです。また植物性の胎盤を含むため、内分泌をよくし、抗酸化の作用があることから、養生茶としても知られます。どちらも、熱湯に入れて、さっと洗い流し、その後二煎目に湯を注いでしばらく待ってから、飲みます。
ほのかな香りがし、淡い黄色の水色が出てきます。いやみのない素直な味です。
泥の中から生まれてくるのに、一点のよごれのない清らかな白やピンク、鮮紅の花を咲かせます。エジプトでは、青い蓮花も咲くそうです。衆上を救う極楽の花とされているのも、このような理由からでしょう。自らが枯れてもなお、まだ、人の心身をやしなう花。

「水陸草木の花、愛すべきものはなはだ多し。晋の陶淵明は独り菊を愛す。李唐より来、世人、はなはだ牡丹を愛す。予、一人愛す。蓮の汚泥より出でて染まらず、清漣にあらわれてなまめかず。中通り、外直く、蔓あらず、枝あらず、香り高くして、ますます清く、亭々として浄くたち、遠く観るべくして、なれもてあそぶべからずを」    (北宋 愛蓮説)

九曲席(茶室 トチノ木亭にて)
九曲紅梅(きゅうきょくこうばい) 2011年春茶(浙江省産)

九曲とは、中国福建省、武夷山の周囲を巡る川、九曲渓にちなんでいるそうです。
このお茶は、浙江省に産し、種類では紅茶にあたりますが、昔は「九曲鳥龍」や「龍紅」と呼ばれていました。紅茶は、鳥龍茶から派生したもので、発展途上において、お茶の製法と名前が交錯していたのでしょう。地図を見ると、浙江省と福健省は隣り合っており、どちらも茶処として、古くから栄えていました。しかし、歴史的に紛争も多く「太平天国の乱」なども起りました。福健省の北部と、浙江省の南部は、隣接と分断があり、茶をなりわいとする人々の往来や商売の交流も影響を受け、地理的に多少かけ離れた場所でも、茶名に残ったと見られます。九曲紅梅は、浙江省西南地区の杭州、銭塘江の畔海抜500メートルの山頂に産します。豊富な水量を誇る銭塘江の水が蒸発し、霧となって上り、山頂の盆地まで立ち込めます。また、従来樹木が多いことから、風をさえぎり、雪害の影響が少ないため、山頂の樹間において良質の茶樹が育つそうです。
「山は高いことが一番ではない、仙人がいるかどうかが真価だ。水は深いことが一番ではない。龍がいるかどうかが真価だ」という中国のことわざがあるそうです。
山水の世界は、物理的な高さや、深さのみではかれない、幽玄なものがそこに存在していることを言い表しているのでしょう。「名山出好茶」ともいい、よいお茶は、そのような山水の気の持つ、目に見えない真価を含みます。そのため、よいお茶を飲むと、山水に身を置いたように、「美味しい」以外に、「ほっとする」「リラックスする」「気持ちがよい」という感じを覚えるのではないでしょうか。
龍眼ともよばれる果物「桂円」に似るという独特の香りに、美しい暗紅色の紅茶です。

台湾花布席(あずまやにて)

台湾花布は、別名「客家花布」と呼ばれます。
客家とは、古代中国、東北部の中原地帯出自をルーツとする正統漢民族で、古代王族の末裔などが多く、歴史上戦乱を逃れるために、中原から南へ移動と定住を繰り返してきた流浪の民族です。原住民から、よそ者の意である、《客家》と呼ばれてきました。福健、広東の奥地より、西は四川省まで、台湾は、流浪地の最東端にあたります。血族意識が非常に高く、ほとんどの家に古代からの族譜があり、独自の習慣や古い言語が残っているそうです。歴史的に大成した人物を多く出し、日常生活は堅実で、商才があり、師弟の教育に熱心で、先祖と家族を重んじる独特のセオリーがあります。
客家の用いる伝統的な花模様のこの布地は、昔から生活の中で用いられ、布団のカバーにしたり、衣服に仕立てたり、帽子の裏地になったり、懐かしさと親しみ深さのあいまった生命力にあふれた意匠です。明るい色彩に大胆な花模様が、南国台湾をよく表しています。
この席は、この台湾花布の上で点てられる福健、広東、台湾などの客家にゆかりのふかい地域のお茶を「百花繚乱」に、楽しみましょう。

●文山包種茶(ぶんざんほうしゅちゃ) 2011年春茶(台湾 文山区)

青心鳥龍茶種から、作られる比較的浅い発酵をさせた青茶の一種で、台湾北部の茶を代表する銘柄。蘭の花を思わせるみずみずしい香りと馥郁とした口当たり。翡翠をおもわせる深い緑の、大きな葉が特徴。

●炭焙包種茶(たんぺいほうしゅちゃ) 2007年老茶(台湾 文山区)

文山包種茶をねかせた後、炭火で焙煎することで、お茶の追熟香に加え、花香にバニラ香、熟した柑橘香が加わって、複雑な風味となり、均質な表情の電熱焙煎とは違う表情豊かな仕上がりとなる。また、お茶に炭の成分が入り、それが湯に溶け出すことで、茶水が甘くなる。

●蘭香水仙(らんこうすいせん) 2011年春茶(福健省 武夷山)

2011年初出市の武夷岩茶の新銘柄。武夷水仙を母樹にし、水仙のひそやかな冷香と、蘭の華やかな温香が組み合わさった香り。「岩骨花香」が特徴とされる武夷岩茶ならではの骨組みのしっかりした香りの輪郭の中、茶味は華奢で、軽やかな味わい。

●蜜蘭香単叢(みつらんこうたんそう) 2011年春茶(広東省 鳳凰山)

文山包種のルーツとなった青茶の一種。標高およそ八百メートルの鳳凰山頂付近の樹齢の高い、大きな茶樹から作られる。古木の風格があり、独特の苦味の中から相反する甘い香りが漂う。飲みごたえのある重厚な味わい。

●柚子茶(ゆずちゃ) 陳年蔵茶(台湾)

大型の柑橘をくりぬき燻製し、中に烏龍茶や、普洱茶を詰めて、長期保存を可能にしたお茶。客家の人々は、限られた食材の有効活用のため、日常食材の燻製の技術が発達していた。
柑橘の皮は、古くなる程《陳皮》として、風邪の治療などに用いる漢方薬としての効用も高まり、また、スパイスとしても香りが熟成されてよくなる。お茶は、どちらも保存に適した製法の濃香系統のものが用いられ、柑橘の移り香ともあいまって特有の茶味を備える。

『茶席のお菓子』

蒼穹(京都市東山区宮川筋)    ゆず皮、くりしぐれ、栗ぼうろ、紫芋、昔風ビスケット
北京より             木の実さまざま 他

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